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10月8日 雨月物語の小舟
隆慶一郎さんという時代劇作家を御存知かと思う。
「吉原御免状」「影武者徳川家康」「一夢庵風流記」(柴田錬三郎賞)などが代表作。活躍したのは約10年間ぐらいか。十年ほど前にお亡くなりになったと記憶している。
この隆慶一郎さん、時代劇作家の前は、池田一朗というとっても有名なシナリオライターでした。
脚本家をやっててこの人の名前を知らない人はいないくらい有名で実力派。
「陽の当たる坂道」や石原裕次郎作品など、手がけた映画は数十本、テレビの方は数えきれないぐらい。ドリフターズの映画もやったはずだ。知りたい人はネットで調べてくれ。とにかく、やたら仕事をした人で、その殆どが立派な作品でした。
いつもショートピースの缶を手に持ち、威風堂々とした人で、私は駆け出し時代にこの人に会って、緊張で固まってしまったのを覚えている。
その池田一朗さんが、なんと実は小林秀雄の弟子だったのです。
あの頃池田一朗さんは「師匠が死んだら俺は小説書くから。あの人が死ぬの、待ってるんだ」と言ってたのです。
小林秀雄もわりと最近まで生きてた人なんだけど……と言っても20年くらい前だけど、目の前にいる人が、そういう歴史上の人物の弟子だなんて、ホントびっくりした。でも、師匠に自分の小説を読まれて評論などされたらたまらんわという感じが伝わって来て、なんだか愛着感じちゃいました。
そして小林秀雄が亡くなってしばらくしたら、本当に池田一朗さんは隆慶一郎と名前を変えて時代劇作家デビューしたんです。しかも脚本家として超多忙だったはずなのに、いつの間にこんなに書いてたんだと思うほど、次々と時代小説を発表していったんですね。それがすごいなあと思って今日の日記を書いたんですけどね。
人間、よく言うアヒルですね。水の中で必死に漕いでるんですね。あの人、シナリオ書きながら、時代小説を相当書きためてたんですね。どおりで晩年のシナリオはいい加減だった。なんて言うと、池田さんのお弟子さんに怒られるけど。
今日はまあ、それだけの話なんですけどね。中原中也、小林秀雄と来たら、なんだか池田一朗さんのことを書きたくなっただけです。
ついでに歴史と触れ合った体験をもうひとつ。
十年ほど前に某有名監督と仕事をしたときのこと。
「溝口健二の雨月物語知ってるだろ?」
「ハイ」
「あのファーストシーン、池の上をスーッと小舟が行くだろ?」
「ハイ」
「俺、あの舟の後ろで池に半身漬かって、小舟をそおっと押してたんだよ」
「……」
ああ、びっくりした。目の前に歴史がいたのだ。
大体、あの小舟は後ろで押してたのかと、それもびっくりだ。
じゃ、ついでにもうひとつ。
吉永小百合主演の「伊豆の踊り子」。あの映画で帝大の学生さんを踊り子が走って見送る堤防があるんだが、そのずっと後ろの背景に、私が生まれた家が映っているのだ。
ああ、びっくり。
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